私が研究しているロボットの中には形状変化による質量移動,要は「おもりを振り回す」ことを動作原理の基本においているものがいくつかあります.たとえば球体ロボットや半球ロボット,三脚歩行ロボット,スネークボードなどがそうです.そこで,おもりが効果的に働き,かつコンパクトなロボットを設計しようと思うと,質量がなるべく一点に集中したおもりが欲しくなってきます.(慣性モーメントと質量の比をなるべく大きくすると言い換えてもよいでしょう).
ロボットの構造には軽い金属の代表であるアルミを使うことが多いです.一方,重い金属としてはまず金が思い浮かびますが,もちろんロボットに使うには高価すぎます.工作でよく使う金属の中では鉄や黄銅(真鍮)などが比較的重い部類に入ります.代表的な材質のおよその密度をまとめてみますと
- 白金族元素(白金21.45,イリジウム22.42,オスミウム22.57)
- 金 19.32
- タングステン 19.3
- ウラン 18.95
- 水銀 13.55
- 鉛 11.35
- 銅 8.96(黄銅は銅と亜鉛との合金)
- 亜鉛 7.13
- 鉄 7.87
- アルミ 2.70
- 水 1.0
白金族は金よりも重く,金よりも稀少で高価です.水銀や鉛は安価でそこそこ重く,加工しやすいのでよく使われますが,安全性の面で問題があります.劣化ウランは論外ですね.一番手頃なのはやはり鉄と黄銅です.鉄は硬くて加工が面倒ですが,黄銅は研究室の工具でもサクサク削れて,見た目も美しいのでGoodです.
私がいま熱く魅かれているのがタングステンです.密度は金とほぼ同じ.その名も日本タングステンという会社が製造・販売しています(超硬工具と超硬合金を対決させるTV番組で,工具側として出演していました).合金の場合は純タングステンより密度は落ちますが,それでも16〜17g/cm^3程度,黄銅の倍です.レアメタルなので入手は容易ではありませんが,一度使ってみたいものです.
ちなみにこれまでのロボットについては,半球ロボットSurface Walkerでは釣り具屋で売っていた鉛のおもり,球体ロボットVolvotでは黄銅,三脚歩行ロボットMartian初号機では鉄のおもりを使っていました.
P.S.昔,私の仲間うちではよく「アルミは軽くて重くて軽い」と言われていました.アルミは確かに軽いのだけれども,むやみに部品を増やしていくとすぐに全体が重くなる.これはいかんといって肉抜き(部品に穴を開けたり溝を掘ったり)して軽量化しようとしても,削りカスも軽いためになかなか重量が減らない,というわけです.重量制限のあるロボコンなどの経験から生まれた名言です.